どうして高学年担任は大変と思われているのか
「来年度は5年生を指導してください。」「4月から6年生の担任をお願います。」 と学年末に校長先生にお願いされると、不安になる方も多いでしょう 。
『はたして高学年担任がうまくで きるのだろうか』と。
しかし、ちょっと待つてください。では、どの学年なら自信をもつてできるというのでしょうか。1・ 2年の担任は簡単なのでしょうか。 一方、 新規採用の教師は3・4年をもたされることが多いようですが、中学年は“ 楽”なのでしょうか。
いえ、決してそんなことはありません。すべて大変です。
簡単な学年などありません。発達段階の違いで、指導の方法がそれぞれ異なるだけで、楽とか大変とかで区別 されるべきではありません。きちんと各学年の発達段階が分かつていなかったり、 指導法をよく考えずにどの学年でも同じように適用したりすると、低学年であろうと、中学年であろうと、うまくいきません。
低中学年の子ども達は先生の言うことをまだ聞いてくれる学年なので、 表面上はうまくいくことが多いで すが、きちんとした指導ができていないと5・ 6年にかけて、学級担任の指示に従わなかったり、学校の ルールを守らなかったり、当たり前の生活習慣ができなかったりと、 将来に向けて禍根を残すことになってし まうでしょう 。
では、どうして高学年が大変と思われるかと言うと…、 全校に関わることや学校を代表することが多からです。高学年の態度や考え方は、即その学校の在り方を示すものとなります。6年がいいと他学年もよくなります。しかし、6年が荒れてしまうと、学校全体も落ち着きのないものとなってしまいます。
高学年で子ども達が荒れる原因とは
ひどい反抗を見せる理由には、
①低中学年の指導がきちんとなされていない。
②本当に高学年の先生の指導がひどすぎる。
③指導方法が大好きだつた前担任のやり方と大きく違う。
の3つがあります。
まず、②本当に高学年の先生の指導がひどすぎるについて、高学年の指導ができない教師・不安がある教師とは、どういう教師かを考えてみましょう。
1.自信がない 2.考えを押し付ける 3.授業がおもしろくない
4.話がつまらない 5.融通がきかない 6.子どもにあまい
7.子どもを叱れない 8.指導が厳しすぎる
などが主な特徴ではないでしょうか。
難しいのはこの中の多くの項目が相反しているということです。
例えば1「自信がない」と2「考えを押し付ける」です。自信がない教師は、自分の考えをおしつけることなどせず、優柔不断で子ども達をまとめることができません。かといって、自信があれば、自分の考えを押し付け気味になり、子ども達から反発されるかもしれません。
5「融通が利かない」と6「子どもに甘い」もそうです。融通がきかない教師は子ども達に疎んじられます。しかし、融通をきかせると、子ども達に甘い指導をしてしまい、クラスがまとまらない場合もあるのです。
7「子どもを叱れない」と8「指導が厳しすぎる」に関しては、悩んでいる人もいるでしょう。厳しくしたほうがいいのか、あまり叱らない方がいいのか…。
上記の6つは、塩梅を見極めないと、高学年では子ども達が教師の言うことをきかな くなったり、指導が通りにくくなったりするのです。
この中で、どんなに改善しすぎても構わないのは3「授業がおもしろくない」と4「話がつまらない」です。話がおもしろくてクラスが荒れることはありません。授業が楽しく充実することで、クラスが崩壊することはありません。だからこの2つの力をつける ことは大切なことなのです。
ただし、上記8つの大半が、きちんとできない教師は高学年に配属されません。だから、純粋に②「指導がひどすぎる」の理由で荒れることは少ないです。しかし、高学年の指導ができない教師が、低学年の担任なったら、きちんと指導ができるのでしょうか?指導すべきことをきちんと指導できずに、次の学年に進ませてしまい、高学年で荒れてしまう 原因を作ってしまうと思いませんか?
だから、高学年の指導ができないから低学年をもつのではなく、どんな学年をもっても、きちんとした結果をだせるだけの指導力や技量を示さなくてはならないのです。(もちろん、低学年の担任として、素晴らしいスペシャリストも大勢います。「高学年をもっていない=低中学年でいい指導ができない」ではありません。)
③指導方法が大好きだつた前担任のやり方と大きく違うは、子ども達が4年の担任の先生を大好きで、新5年担任がその指導法や批判したり、全く導う方法をとったりすると、子ども達が反発する場合です。大変なのは、4年担任のよい指導の結果、子ども達が非常に素晴らしい成長を遂げ、大人の考えや行動をとるようになっている場合です。
そんな子供達の前で、大好きだった前担任を否定するような行為をとると、一気に手痛い反発を食らうことがあるのです。これは、新担任の指導力や力量とは関係ありません。
しかし、この事例もそれほど多くはありません。高学年を任される新担任は、それをわきまえていて、前担任の指導法を尊重しながら、自分なりの指導を上手に展開するからです。ただし、自分の指導法を展開できないので、不満やストレスがたまったりすることでしょう 。少しずつ、時間をかけて、自分のやり方に子ども達を慣れさせていきましょう 。
子ども達が荒れる理由の多くは①低中学年の指導がきちんとなされていないです。
全部の指導が悪いわけではありません。しかし、当たり前の指導ができてないことが多いのです。例えば、“ 先生を愛称で呼ばせること”です。親しみをもつてほしくてやつているのでしょうが、将来、子ども達にどういう行動を誘発することになるでしょうか。
また、指導の初歩である、あいさつ指導などもうまくできない場合があります。低学年が大きな声であいさつができない…、校歌が歌えない…、廊下を走る…、遅刻をしてくる…、低学年でこんな当たり前のことを身につけていない子ども達は、高学年になったらどういう姿になるか想像できることでしょう。
素直に言うことを聞いてくれるはずの低中学年のときに、 教師の指導がきちんとなされていないことは、5年時にクラス替えをしたときに、大きな負担として新担任にのしかかってきます。以前なら、「はい」と素直に聞けていた子ども達が、高学年になると「なんで?」「 意味ないよ」「関係ない」「 疲れる」と否定的な態度をとり、高学年にふさわしい行動をしなくなることは、高学年担任を経験した教師ならどなたでも大なり小なり経験したことがあることでしょう。
低中学年の教師はもっと真剣 に 、高学年の担任の負担を減らすために、低中学年でどんな指導をしたらいいのかを考えていく必要があると思います。
しかし、たとえ①であっても、高学年の先生の指導がよいと、子ども達は短期間で大きく変わります。きちんとできてない子を1年間かけても変えられないのは、 基本的には担任の力不足です。「どうして低中学年できちんと指導してくれなかったんだ」と1学期に文句を言うのはいいでしょう。しかし、1年かけて変わらないままだとしたら、それはすでに高学年の担任の責任と言えます。
高学年担任がよい指導をするために必要な事
では、高学年でよい指導をするにはどうしたらいいのでしょうか。そのためにはまず、児童理解をきちんとするべきです。「敵を知り、己を知れば百戦危うからず」です。 5年と6年とではその特徴は大きく違います。5年も6年も同じだと考えて指導すると、うまくいかない場合もあるでしょう。ここでは主に 5年後半から6年生を想定して説明します。
≪5年後半から6年初めの子ども達の特徴≫
・責任感が出始める。 ・面倒に思うことが多い。 ・勉強は楽しくない。
・人前で発表したくない。・人の言うことに素直に従いたくない。
・友達が大切だ。(先生よりも) ・自分を変えたいと思っている。
・まだ、先生の言うことを聞いてくれる。
これらを見ると、自分(大人)と 同じと思いませんか?そう、彼らは大人に一歩足を踏み込んでいるのです。でも、大人と違うのは、圧倒的に経験が足りないことです。知識や技能もありません。表現力も稚拙です。解決法や対処法もよくわかつていません。
それなのに、6年だから、みんなの中心になってリーダーとしてがんばれ!と言われると、がんばろうとするのですが、 一方でその責任に押しつぶされそうになったり、逃げだしたくなつたり、初めから関わろうとしなかったりするわけです。そういう高学年を指導する方法は、とにかく経験させ、成功体験を一つでも多く増やすことです。
当たり前の指導ですが、教師にもジレンマが生じます。やったことがなくて自信がない子にどうやつて多くの経験を積ませるのか…。すぐ「できない」「だめだ」「意味ない」「疲れる」と言い放ち、反抗期に半分足を突っ込んでいる子どもたちにどうやつてやる気を起こさせるのか…。 しかし、決して難しいことではありません。もちろんとても苦労したり時間がかかったこともありますが、たいていは1カ月で子ども達は変わります。あとはそれを習慣として体や心にきちんと定着させ、当たり前にしていけばいいだけなのです。
しかし、高学年を指導する方法や考え方をきちんと成立させるために、それ以前に私たちが獲得してい なくてはならないものがあります。それは以下の3つと考えます。
①信念をしっかりもつこと。
②決してあきらめないこと。(投げ出させないこと )
③納得させられる話術を習得すること。
この3つがあるのなら、何も恐れるものはありません。子ども達は短期間で変わっていくこと でしょう。
少なくとも①信念と②あきらめないに ついては教員になった段階で、すでにもっているはずです。もし現在もっていない、 または即答できないのなら、クラスはうまくいっていないはずです。 荒れている原因は、自分の考え方・態度にあるはずです。自分をきちんと見つめ直してください。 信念がない教師は、子ども達を導くことはできません。あきらめる人は、原因の多くを子どもや保護者のせいにしていることでしょう。
③話術については、まだその技術を身につけていないかもしれません。人は言葉でコミ ュニケーションをとる動物です。想いの強さは必要ですが、それを表現する適切な技能を習得していないと、逆に反発されることもあります。これからだんだんとその技術を高めていってください。
そのためには本を読むのもいいです。先輩の話し方を盗むのもいいでしょう。ことわざや四字熟語など語彙をふやすのもよいです。偉人の言葉や有名な話を覚えるのもいい勉強になります。名演説を聞くことも効果的です。
普段から多くの言葉を意識して聞いたり見たりしてください。そして意識的に使うように してください。強い信念をもち、きちんと相手の心に響くように話ができ、どんなに大変でも決してあきらめないのなら、教師の態度は、瞬く間に子ども達の心をつかむことができるのです。
まだ、話術などのスキルが獲得できていない現在は、とにかく一緒に遊んでください。子ども達に勝ったり、 子ども達を上回ったりすることができればベストです。子ども達は一緒に遊ぶ教師を仲間と見なし、自分たちを超える教師を尊敬します。
すると、少しの失敗も受け流してくれたり、少しの無理も聞いてくれたりするようになります。退屈な授業(?)もきちんとつきあってくれたりもします。確かに最近は学級事務が多く、子ども達と遊ぶ時間をとれないことも多いでしょう。
しかし、遊ぶことができると、学級経営が円滑になります。指導力に不安のある先生は、一緒に遊んで指導の補強をすることをお勧めします。低学年は、教師の言うことを素直に聞いてくれますが、高学年になると、当然の成長段階として、素直に従うことができなくなっています。
しかし、そんな子ども達の心にストンと落ちるような説得の仕方や納得のさせ方を身につけることは、高学年を担任する教師には必要なことです。ちょっとした言い廻しや、たとえ話などの工夫をするだけで、子ども達は驚くほど真剣に話をきき、指示にも従ってくれます。
以下はそれぞれの場合の具体的な指導の在り方の一例を示しました。
具体的な指導の在り方(随時更新)
⑩「きれた」「むかつく」「うざい」「ちくり」等の言葉のおかしさ
番外編