「きれた」「むかつく」「うざい」「 ちくり」等の言葉のおかしさ




言葉のおかしさに気付かせ、直すために

基本的に言葉に関しては「簡単」、「短い」、「リズムよい」は表現力を悪くしたり、貧しくしたりする傾向にあります。他の行動もそうなのですが、よいことや正しいことは面倒な事、時間がかかることが多いのです。人はどうしても楽な方に流されがちになります。言葉にもそれがでてしまうのです。

家庭でいい言葉遣いをして育ててきたのに、幼稚園や保育園に入れると、一日で「バカ!」や「死ね!」を覚えてきてしまうという保護者の嘆きはよく聞く話です。

でも、幼い子が、そういう端的な表現を覚えて、使うのは当然のことなのです。語彙が少なく、表現力が乏しい幼い子ども達が、自分の感情を表すには短い言葉の方が便利だからです。

しかし、高学年になって表現力も豊かになり、語いも増えてきているのに、まだそういう言葉を好んで使っているのは、やはり指導をして改めていく必要があります。

表現力の豊かな人は、相手を説得したり、感動させたり、導いたり、惹きつけたりができる人です。そういう児童の育成を私たちは図っていく必要があるのです。

間違った言葉を使っていると

短い言葉で気持ちを表現する子が多いと殺伐としたクラスになる場合があります。

たとえば、いいもの、わるいもの、すばらしいもの、こわいものなどを、なんでも「すごい」の一言で表現してしまう子がいますが、語彙は貧弱になり、説得力はなくなり、作文などでの表現力も伸びません。

自分の気持ちをうまく表現できないので、イライラしてケンカになることも多く、ケンカになったときには、説得するだけの表現力がないので、暴言や暴力に訴えることになります。

現在、子ども達の語感を貧しくしそうな言葉の筆頭は、「やばい」です。

何でもこの一言で置き換えてしまい、おいしくても、まずくても、感動しても、つまらなくても「やばい」ですませてしまう…。

そういう現状はまさしく”やばい”です。語いが貧しいと、表現の仕方も貧しくなるので、相手を納得させる言い方や感動させる言い方ができなくなります。これを直す方法は言葉本来の使い方に立ち返らせることです。




正しい言葉を使わせるための指導法

それには主に2つのやり方があります。

①本来の意味の言葉に置き換える。

「おやじ狩りしようぜ」と言って、若者が気軽に、中高年を襲って金品を巻き上げいたという事件がありました。

もし「強盗しようぜ」と誘われたらどうでしょうか。

きっと躊躇することでしょう。言葉には、その発音に意味や力があるのです。自分たちの言動が正しいかどうか気付かせるためにも、正しい言葉に置き換えて、考えさせるといいでしょう。

②言葉を省略させず、長く言わせる

略語はリズムがいいので、よく使うのですが、すべての気持ちを同一の単語に置き替えてしまうので表現が貧しくなります。特に、カッとしたときや、投げやりになったとき、面倒に思ったときに使ってしまいます。

そういうときは長い文で言わせるようにしましょう。子ども達、クスッと笑って、「きれた」「むかつく」と怒っていた気持ちが和らぎます。

児童への指導例

以下は、おかしな言葉を耳にしたときの対応の仕方の例です。

「きれた」

「何が切れたの?こめかみの血管?それなら『こめかみの血管が切れた』と言いましょう。または、『堪忍袋の緒が切れた!』ですね。」…②のやり方

「むかつく」

「どこがむかつくの?胸かい?だったら、『胸がむかむかするので、トイレに行って吐いてきていいですか?』と言いましょう。」…②のやり方

「うざい」

「勝手に言葉を省略してはいけません。うざいではなく、うるさいと言いましょう。でも、”うるさい”は相手の心を逆なでするから、静かにしましょうがいいですね。」…②のやり方

「ちくり」

「「先生への報告」のことをわざわざ、否定的な、響きのよくない「ちくり」とか「告げ口」とかを使い、悪いイメージをもたせてしまっていいのですか?どんなに正しいことを先生に相談しようとしても、「ちくった」「告げ口した」と言われると、自分が悪いことをしていると 思ってしまわないかい?そして口をつぐんでしまうと、イジメや悪さが横行するクラスになってしまうよ。それでいいのですか?」…①のやり方

大切なのは自分自身の言葉

言葉には、ものすごい力があるのです。相手の心や行動をいとも簡単にコントロールできてしまいます。私たちはその使い方を正しく理解し、良い方向に子ども達を導いていかなくてはなりません。言葉をうまく使えない子ども達は、カッターをもっている赤ん坊と同じです。

物や他人を傷つけるだけでなく、自分自身も傷つけてしまうことでしょう。言葉の使い方は、どれほど気をつけさせてもやりすぎることはないのです。

そのためにはまず、教師の語感を磨くことです。おかしな言葉、美しい言葉をしっかり理解し、自分自身がいつも正しく、美しい日本語が使えるようにしましょう。

そうすると子ども達が面白半分に使った言葉のおかしさやあやうさに、気がつくようになります。

教師が、無目的に、調子にのって「うざい」とか「ださい」とか「やばい」などを使わないようにしてください。子ども達が喜んで使うようになってしまいます。

また、「きれた」「うざい」を直接指導して止めさせるのではなく、間接的に言わせなくする方法もあります。

この方法は手間がかかります。しかし、最初に述べたように、よいことや正しいことは手間や時間がかかるものなのです。

その方法とは、全ての会話を長く言う習慣をつけさせる方法です。

「先生!トイレ!」 →「先生、トイレにいってきていいですか?」

「先生!気持が悪いです。」→「先生、気持ちが悪いので、保健室に行って休んでもいいですか?」

「先生…、宿題忘れました…。」→「先生、ごめんさない。宿題忘れました。明日持ってきます。」

子ども達は普段の会話のときから、なるべく短い言葉で意志の疎通を図ろうとしています。その結果、自分のやりたいことや自分の気持ちを相手に言わせてしまうのです。あなたは、そういう会話に慣れてしまい、子ども達の気持ちを代弁してしまうことが多くありませんか?

そこで「じゃあ、トイレ行ってきなさい」ではなく、時間はかかっても子ども達に全て言わせてしまうのです。そうすると、子ども達は自分の思いを長文で言おうとする習慣を身につけることができるようになります。

時間はかかりますが、全ての会話を正すことができるので、結果的には一番効果的な方法になるでしょう。