自分の信念を子ども達に伝える




信念を持つこと

指導者・コーチ・責任者は、強い信念をもつことが大切です。

目標を実現するために、何があっても、ブレない、強い意志をもち、常に最善の方法をとることができる人は、非常に魅力的で、周りの人を惹きつけます。

“信念”が浸透すれば、その集団は自然と指導者と同じような考え方、行動の仕方をとるようになります。大人でもそうなのですから、子ども達の場合は、さらに大きな影響を受けます。

しかし、信念をもっていても、教師が独善的になったり、誤った指導をしたり、良かれと思って指導した方法が実態に合わなかったりすると、学級は荒れてしまいます。気をつけてください。

ところであなたの信念は何でしょうか。

いいクラスを作るとか、みんな仲よくするというねらいや目標でなく、子ども達が卒業したあとも、子どもたちの生き方に関わる考えです。これに即答できないのなら、集団や組織のリーダーになってはいけません。信念なきリーダーは、人々を誤った方向に導いてしまうどころではなく、自分たちが正しいのか、間違っているのかということに気づかせることさえできないからです。(特撮番組で悪の組織のリーダーがいますが、あれはあれでリーダーとして優れているのです。悪の信念がしっかりしているから、部下がついていくのです。やっていることは悪いですけど…。)

“教師”をただ指導ができればいいとか、授業を教えることができればいいとかということのみでとらえていると、子ども達はついてきません。「指導ができる」「授業がうまい」のはもちろんですが、集団の リーダーとして子ども達に進むべき正しい道を指し示す存在でなくてはなりません。あなたの生き方が問われているのです。

これまで20年、30年生きてきて、あなたは自分の根幹となる強い信念を育ててきていると思います。それがふさわしいかどうか見直して、子ども達に正しく伝えていけばいいのです。




私自身の信念

私の信念は「正義」です。これは昔も今も変わりません。とても荒れていた6年を担任したときの初日のことは今でも鮮明に覚えています。教室に入ると、男子の多くが三白眼で私を見ています。女子は、あきらめ気味でびくびくしていました。気がつくと、男子が1人すでに半泣き状態になっています。噂には聞いていましたが、初日からこれか…と気が重くなりました。

「正義」と黒板に書いたときは、失笑がもれました。『何を熱血しているんだよ。』『そんなの無理に決まっているだろ。』 アホらしいという雰囲気がひしひしと伝わってきました。女子が叫びます。

「先生に私たちを守れるわけがない!」「学校を出てからも、先生は私たちを守ってくれるんですか!?」

クラスのほとんどの子は無理と思っていました。しかし、同時に私が“正義”を どのように実行させていくかをジッと見ていたのです。

だからこそ、正しいことをした人が必ず得をするということをブレずに指導し続けました。宿題忘れた子が得をすることはありませんでした。決まりを破った子は必ずその報いを受け、きちんとルールを守った子は守ってよかったと思わせるような指導を続けました。ただし、ケン カで手を出した子がいても暴力自体はしかっても、その行為が正義感や相手の態度が許せないとう気持ちからでたのなら、それは認めてあげ、諭しました。

「お前が手を出さずに、私に相談してくれたのなら、私はあいつだけをしかれたのに…。お前の悔しさが痛いほどわかるだけに残念だよ。」

いつも人の気持ちの上に立った“正義”を心がけまし た。

どんなに評判が悪い子でも 、偏見をもたずに、きちんと話を聞き、正し い判断を示しまし た。

そうすると、その荒れていた6年生の態度が、約1カ月で変わり始めます。

『これまでとちょっと違うぞ。』『もしかしたら変わるかもしれない。』 また、勉強ができない子やわからない子は、短時間でも時間を見つけて個別指導をし、励まし、ほめ、どんなに時間がかかっても理解させ、学力を上げるようにしました。休み時間は毎日のように、男子を集 めてボール遊びをしました。掃除も常に一緒にやりました。ゲームや漫画などの趣味の話や世間話もたくさんしました。クラスレクも多く計画し、楽しい時間を演出しました。

一学期が終わるころには、いろいろと小さな問題はあったものの、クラスの雰囲気はずいぶんよくなってきました。『この先生にはごまかしやウソは通用しない』『この先生なら、私たちのことを守ってくれる。』『この先生なら、俺たちのことも理解してくれる』

二学期の初日に、子ども達に早く会いたくて、ウキウキしながら学校に行ったことを覚えています。

最終的には、あれほど荒れていたクラスだったのに、三学期になると女子たちが、「このクラスって最高のクラスだね」「卒業したくない」「友達と別れたくない」目つきの悪かった子どもたちも、可愛いまん丸の目をして卒業していきました。

「先生に会わなかったら、中学に行ってどうなっていたかわからない。ありがとうございます。」 クラスのボスで、一番の問題児と周りから思われていた子の言葉です。(私は問題児などと思ったことは 一度もありませんでした。気持ちの表し方が上手くない子だなぁとは思いましたが…。)最高のほめ言葉 です。

でも、私からすると当たり前の、いつも通りの指導の結果だったのです。

このクラスは、殺伐とはしていましたが、心は真っ直ぐでした。そういうクラスは、表面に出てきている態度はひどくても、指導自体は大変ではありません。

大変なのは、勉強をすることに追い込まれて、子どもらしい生活を過ごせていない子がたくさんいるクラスの方です。表面的には目立つことはなくても、閉そく感が非常に強くて、潜在化している問題が多いのです。ちょっとしたことで、友だちとうまくいかなくなり、ルールを破り、教師の言うことを聞かなくなり、クラスがばらばらになってしまいます。今はそういう子ども達の心を救ってあげて、毎日、学校に来るのが楽しくて仕方がないという状況にすることが私の役割と思っています。

さて、あなたは、どんな信念をもって、子ども達に接し、指導していますか?

信念なき指導者は、決して人の心を惹きつけることなどできません。そして、その信念は子ども達の心にきちんと伝わっていますか?それとも、空回りしていませんか?考えてみてください。