体つくり運動について




「体つくり運動」領域

平成20年度学習指導要領「体つくり運動」領域の改善の背景

平成20年度の学習指導要領改訂では、運動する児童とそうでない児童の二極化の傾向が見られることや生活習慣の乱れが小学校の低学年にも見られることから「体つくり運動」領域の一層の充実が求められた。

そこで、改定前まで、小学校高学年から位置付けられていた「体つくり運動」が小学校低学年から位置付けられるとともに、発達の段階を踏まえた新たな内容として、多様な動きをつくる運動(遊び)が、小学校低学年及び中学年で示された。

「体つくり運動」領域の基本的な考え方

「体つくり運動」は、児童が体を動かす楽しさや心地よさを味わうことができるようにすることが求められている。また、体力の向上については、発達の段階を踏まえ、小学校から高等学校までの12年間を4年間ごとに区切り、体力を高めるための目標が示されている。はじめの段階である小学校1・2年と3・4年においては、運動に取り組んだ結果として「体力を養う」ことをねらいとし、次の段階である小学校5・6年から中学校2年までは、「体力を高めること」を、そして、中学校3年から最終段階の高等学校までを自己の状況に応じて体力の向上を図る能力を育てる」と示された。

これらを受け、小学校のそれぞれの段階の主な留意点等をまとめると以下のようになる。

<小学校低学年>

「体力を養う」は、低学年の児童の体力に対する認識が低いことから、運動を楽しく行い、力いっぱい活動する中で、体力の向上を図ろうとするものである。

<小学校中学年>

「体力を養う」は、中学年の児童の体力に対する認識が低いことから、運動を楽しく行い、活発に運動を行っていく中で、体力の向上を図ろうとするものである。したがって、中学年の各種の運動を取り上げるに当たっては、中学年児童の体力の養成に十分留意することが大切である。

<小学校高学年>

「体力を高める」は、運動を楽しく行う中で体力の向上を図ろうとするものであり、体力の向上の中で、「高める」としているのは、高学年児童が体力の高め方に関する理解がある程度できるようになっていることを考慮して、「体つくり運動」で意図的に体力を高めるための指導を行うこととしたことによるものである。




「体つくり運動」の授業で大切なこと

「体ほぐしの運動」

自分の心と体の関係に気付くこと、体の調子を整えること、仲間と交流することの3つのねらいに合った運動を取り上げる。人数を変えたり、テンポを変えたりすることで、運動の楽しさや心地よさも変わってくるので、意図的に運動の組み合わせ方やテンポを変えて行うことが大切である。また、自分の体や心の変化への気付きを促すように、発達の段階に応じて行い方や言葉かけを工夫する必要がある。

「多様な動きをつくる運動(遊び)」

低学年の「多様な動きをつくる運動遊び」では、様々な楽しい運動遊びをしながら広く体の基本的な動きを身に付けていくこと、中学年の「多様な動きをつくる運動」では、低学年の運動遊びで身に付けた動きに新たな動きを取り入れてさらに動きを広げたり、2つ以上の基本的な動きを組み合わせてやや複雑な難しい動きを経験することで動きを高めたりすることを目指す。

「体力を高める運動」

普段の生活の具体的な場面など、児童の身近な事例を取り上げ、体力の必要性を実感できるようにする。また、体力には柔らかさ・巧みさ・力強さ・持久力(動きを持続する力)の4つの要素があり、それぞれの体力要素に合った高め方があることを運動を通して学ぶことである。さらに、体力を高めるためには、自分に合った運動を工夫することが大切であるということを理解できるように、「人数、回数、距離、時間、姿勢、用具、方向」などを変化させて、運動を工夫しながら行うことが大切である。

「多様な動きをつくる運動(遊び)」とは?

多様な動きをつくる運動(遊び)は、体ほぐしの運動と共に小学校低学年・中学年の体つくり運動の内容を構成し、楽しく運動(遊び)をしながら体の基本的な動きを総合的に身に付けていくことを目指している。他の領域では扱われにくい様々な動きを培い、結果的に体力の向上につなげていくとともに、力いっぱい体を動かすことによって運動好きにしていくことがねらいである。

多様な動きをつくる運動遊び(小学校第1学年及び第2学年)

動きを広げる→動きのレパートリーを増やす

低学年では、最も基本的な動きを運動遊びとして楽しく経験することによって、動きのレパートリーを増やし、動きを広げることを目指す。

楽しく運動遊びをすることによって様々な動きを経験し、基本的な動きを身に付けることは、直接体力を高めることを目指すわけではないが、将来的に体力向上につながっていくと考えている。運動遊びとして多様な動きを経験しながら、体を動かす心地よさを味わい、自然に基本的な動きを身に付けていくことを目指す。

多様な動きをつくる運動遊び

・体のバランスをとる運動遊び         ・体を移動する運動遊び

・用具を操作する運動遊び           ・力試しの運動遊び

指導のポイント
指導内容

ねらいを明確にして指導することが大切である。体ほぐしの運動と同じような運動遊びでも、「動きを身に付ける」というねらいを考えた指導内容を取り上げる必要がある。

学習の進め方

基本的な動きを基にして、人数、用具、高さ、方向などに変化を付けて、楽しい運動遊びにつなげていく。

(例)前半:動きの経験や習得 / 後半:前半の動きを生かした運動遊びの工夫

教師の言葉かけ

「○○さんは□□に気を付けているからとても上手だね」などとよい動きをしている児童を取り上げることで、動きのこつを本人や全体に伝えられるようにする。また、そうすることで一つ一つの動きが雑にならないようにする。

○学習形態

個→ペア→グループ→全体と運動遊びの行い方を変化させることで児童の気付きや工夫につなげる。

多様な動きをつくる運動(小学校第3学年及び第4学年)

動きを一層広めながら高める→動きの質を高める

中学年では、低学年で身に付けた基本的な動きを繰り返し経験したり、新しい運動を行ったりすることによって、基本的な動きのレパートリーをさらに広げていくとともに、無駄な動作を少なくし、より安定した動きができるようにすることを目指す。また、2つ以上の基本的な動きを組み合わせた運動を経験することによって、巧みに動いたり、よりなめらかに動いたりすることができるようにし、動きを質的に高めていくことも目指す。

多様な動きをつくる運動

・体のバランスをとる運動           ・体を移動する運動

・用具を操作する運動              ・力試しの運動

・基本的な動きを組み合わせる運動

指導のポイント
指導内容

低学年での学習を基に、児童が取り組みたい運動を選んだり、工夫したりする活動を多く設定する。また、低学年での動きの習得が十分でない場合は、一つ一つ動きの確認を行い、確かな動きを身に付けた上で、それを基にした基本的な動きを組み合わせた動きを行う。

学習の進め方

基本的な動きを基にして、人数、用具、高さ、方向、組み合わせ方などに変化を付けてより楽しい運動遊びにつなげていく。

(例)前半:低学年で経験した動き / 後半:新たな運動、基本的な動きの組み合わせ

※単元の後半では組み合わせる運動を工夫しながら実際に取り組んだり、それを友達に紹介したりすることで、動きのこつや工夫の仕方を共有できるようにしていく。

教師の言葉かけ

「とても楽しい運動だし、よく工夫しているね。○○するともっとよくなるね」など児童の考えを認めながらも指導のねらいに合った動きに軌道修正する言葉が重要である。

さらに、中学年では、これまで身に付けた動きをもとに発展的な動きを工夫する活動が多くなる。

「どんなことに気を付けると上手にできるの?」、「やってみてわかった、上手にできるポイントは何?」といった問いかけをしながら、動きのこつを引き出すことも大切である。

○学習形態

個→ペア→グループ→全体と学習の形態を工夫することで、互いによい動きに気付いたり、工夫の視点を広げたりすることにつながり、よりよい動きへの気付きにつながっていく。また、固定したグループでの活動も継続して見合うことができ、工夫した運動を交流し合うことができる。

体力を高める運動」とは?

「体力を高める運動」は、「多様な動きをつくる運動(遊び)」で身に付けた動きや組み合わせを基に体力の必要性や体力を高めるための運動の行い方を理解し、自己の体力に応じて運動を組み合わせたり、運動の計画を立てたりしながら、家庭や実生活で生かせることをねらいとする。

体力を高める運動の行い方を知る

高学年では、「体の柔らかさ及び巧みな動きを高めるための運動」と「力強い動き及び動きを持続する能力を高めるための運動」を取り上げている。具体的には、小学校段階では、発達の段階を考慮して「体の柔らかさ及び巧みな動きを高めるための運動」にやや重点を置いて指導をする。

また、「体力を高めるための運動」は、体力の向上を直接の目的としているが、相対的な数値を向上させることがねらいではなく、児童自らが運動を工夫し、楽しみながら自分に合った体力を高めることに取り組む授業作りが求められる。身近な用具や器具を利用したり、ペアでの運動を取り入れたりしながら楽しい場づくりを設定する。

体力を高めるための運動

・体の柔らかさを高める運動         ・巧みな動きを高める運動

・力強い動きを高めるための運動

「体の柔らかさを高めるための運動」とは、体の各部位の可動範囲を広げることをねらいとして行う運動である。

「巧みな動きを高めるための運動」とは、人やものの動きに対応してタイミングよく動くこと、バランスをとって動くこと、リズミカルに動くこと、力を調整して動くことができる能力を高めるなどのねらいとして行う運動である。

「力強い動きを高めるための運動」とは、自己の体重を利用したり、人や物など、抵抗に対してそれを動かしたりすることによって、力強い動きを高めることをねらいとして行う運動である。

「動きを持続する能力高めるための運動」とは、一つの運動または複数の運動を組み合わせて一定の時間に連続して行ったり、一定の回数を反復して行ったりすることによって、動きを持続する能力を高めることをねらいとして行う運動である。

体ほぐしの運動の考え方

体ほぐしの運動は、生涯にわたって豊かなスポーツライフを継続するために、心と体が運動と密接に関連していることを体得するよう指導することが求められている。よって、運動経験の有無が影響されることなく、誰もが楽しめる手軽な運動や律動的な運動を通して、仲間と運動を楽しんだり、協力して運動課題を達成したりしていくことが大切である。そのために、体を動かす楽しさや心地よさを味わうことによって、自分や仲間の心や体の状態に気付き、体の調子を整えたり、仲間と交流したりしていく。また、運動に取り組み、「楽しかった」という気持ちだけで終わらせるのではなく、心と体に向き合って学んだことを気付けるようにするために、運動する前、運動しているとき、運動した後の気持ちを比べて振り返ることが必要である。