日本国憲法第31条の解説




日本国憲法第31条

日本国憲法第31条文は

「何人も、法律の定める手続によらなければ、その生命若しくは自由を奪はれ、又はその他の刑罰を科せられない。」

となっている。本条は適正手続の保障を定めたものである。手続の適正の内容は、抽象的には、公正な手続であるが、具体的には、告知・聴聞の権利の保障をその中核とする。実体の適正の内容は、抽象的には、規定が人権を侵害する内容ではないことであるが、具体的には、

①刑罰法規の明確性
②罪刑の均衡
③刑罰の謙抑性

などである。本条の規定は、文言上直接的には、刑事手続に限定したものとなっている。このため、明文で規定されない公権力たる行政庁が活動を行う際の行政手続において、直接適用することはできない。このため、本条を行政手続に準用ないし類推適用できるかが問題となる。

日本国憲法の規定は一般に、私人間の法律行為に直接は適用されないとするのが通例であり、一般条項の解釈において、考慮される一要素となる。

しかし、公的機関に求められる手続と同程度の手続を私人が履践した場合には、十分に適正な手続が踏まれたものと評価しうることとなる。明治憲法下においては、官憲などによる人身の自由に対する侵害が存在した。その歴史を踏まえ、 一般的に人身の自由を保障する規定を置いた経緯である。

なお、法律で規定する刑罰は過度に重いものであってはならず、均衡のとれた相当性があるものでなければならない。 また、その内容が明確に定められていなければならず、拡張解釈や類推解釈ができてしまうような抽象的な規定は許されない




罪刑法定主義とは

罪刑法定主義とは、ある行為を犯罪として処罰するためには、立法府が制定する法令(議会制定法を中心とする法体系)において、犯罪とされる行為の内容、及びそれに対して科される刑罰を予め、明確に規定しておかなければならないとする原則のことをいう。

公権力が恣意的な刑罰を科すことを防止して、国民の権利と自由を保障することを目的とする。事前に法令で罪となる行為と刑罰が規定されていなければ処罰されない、という原則である。

刑罰に限らず行政罰や、損害賠償等の民事罰にも適用されると一般的に解される。それまで法律が想定していなかったような態様の犯罪が発生した場合に、これを柔軟に処罰することができない罪刑法定主義は批判的に捉えられることもあるが、罪刑法定主義は個人の人権保障に不可欠の制度であり、また近代国家においてほぼ例外なく認められている原則であるから、このような問題は立法府が立法の不備を少なくすることで解決すべき性質のものとしている。

罪刑法定主義

罪刑法定主義はその性質から、慣習刑法排除の原則、類推適用禁止の原則、明確性の原則、刑罰法規の内容の適正、事後法禁止または刑法不遡及の原則、絶対的不定期刑禁止の原則といった派生的原則が導き出される。

慣習刑法の排除

慣習刑法の排除とは、犯罪と刑罰は法律の形式により明文で規定することを要し、刑法の法源として慣習法を認めないとする原則。類推適用禁止の原則とは、当該事項に関し直接規定する条文がない場合に、ほかの同種の条文を類推適用する技術の禁止である。

類推解釈は禁止されているが,言葉の可能な意味の範囲内で,言葉の日常用語的意味より広く解釈するという拡張解釈は許されている。また、行為者にとって不利な類推解釈は禁止されるが,有利な類推解釈は行為者の利益を害さないため認められる。

明確性の原則

明確性の原則とは、立法者は刑罰法規の内容を具体的かつ明確に規定しなければならないとする原則である。刑罰法規の内容の適正とは、刑罰法規が処罰を必要としない行為を犯罪として規定していたり、犯罪と刑罰とが均衡を失していたりする場合には、憲法31条に違反することになり、法の適正な手続きと関連する。

事後法禁止または刑法不遡及の原則

事後法禁止または刑法不遡及の原則とは、刑罰法規は、その施行の時以後の犯罪に対してのみ適用され、施行前の行為に遡ってこれを適用してはならないとする原則。ただしこの原則も行為者の利益のためのものであるため、本人に有利になる場合はこの限りでは無い。絶対的不定期刑とは、刑の内容ないし期間を全く定めない刑罰をいい、このような刑罰の法定方法は罪刑の法定に反するところから、絶対に禁止される、というものだ。

罪刑法定主義が必要とされる根拠としては、「何が犯罪であり,何をすれば刑罰を科せられるかは,国民自身がその代表者である国会を通じて法律をもって定めておかなければならない」という民主主義の原理、「何を守っていれば刑罰という不利益を甘受せしめられないかという予測可能性が確保されてはじめて国民に自由がある。」という自由主義の原理、個人の尊厳によって基礎づけられる自由と権利を,国家刑罰権の懇意的行使から実質的に保障するという「実質的人権保障の原理」という憲法学的解釈が存在する。