生徒理解について

生徒理解の方法と内容また、教師の教育活動は、児童・生徒のうちに秘められた能力を引き出し、各自の個性的な発達を援助していくことを目指して展開されるが、この目的を達成する為には、児童・生徒1人ひとりを十分に理解することが必要となる。

そのためには、多様な情報を収集すると共に、彼らとの日常的な接触・コミュニケーションを通して彼らの行動や表現の中に秘められた個性と能力、また彼らの内面を的確につかみとる努力が必要であると思われる。生徒を指導するためにもまた、一人ひとりの生徒が、どのような個性や能力をもち、どのような特徴や傾向を示しているかを、指導する側が十分に理解している必要がある。




生徒を理解するために

生徒を理解するためには、上述のような多様な情報を得るためにまず生徒との信頼関係を結ぶことが必要である。そのためには、生徒との時間的共有を増やしたり、会話によるコミュニケーションを積極的に行ったりと、生徒との関わりから信頼関係が生じると思う。

コミュニケーション方法はその場・状況にあった様々な方法が考えられるが、特に重要なのは教師によるその生徒を理解しようという気持ちであると思う。教師のそのような積極的な姿が児童にも影響を与え、信頼関係に発展していくといえる。信頼関係は経験上、ある特定の技術によって生み出されるものではなく、ある程度の時間的共有は必須であり、何よりも理解しようとする側の雰囲気や自分に向けられている態度といったものを、児童が感じながらコミュニケーションを重ねることによって信頼関係が深まっていくものであると考える。

生徒理解には2つの側面があり、ひとつは、生徒のさまざまな側面について教師・友人・親から情報を集めたり、心理テストに表されたデータなど、組織的に収集し最も効果的な指導を行う資料として、それらを総合的に把握することを意味する指導する側」が生徒を理解するための側面である。

もうひとつは生徒が適切な指導や、援助を受けることによって、自分自身に対する理解を深めていく「生徒の自己理解」がある。教師側では指導する側の側面だけであるが、生徒にとって大切なのは生徒自身の自己理解であり、様々な情報を基に深く生徒を理解していくことで、指導する側の側面・生徒自身の自己理解が共に深まる。




生徒理解の留意点

生徒を理解するためにはさまざまな資料を統合していけば、その生徒の人間像や個性がより客観的に浮かび上がっていくが、いくつかその際に留意すべき点がある。

まず、主観的な偏りについてだが、正当で妥当な生徒理解を行うためには、教師自身が可能な限り自分自身の好き嫌いや偏見などの主観的な見方から離れた態度をもって相手の生徒を理解していくことが肝要となる。資料の収集方法については、ごくわずかの資料や情報のみにもとづいて判断を下すことは危険であり、多面的・多角的な理解の仕方が重要である。検査結果の見方では結果自体の持つ限界(信頼性・妥当性の限界)に注意し、検査万能主義に陥らないようにする。

また、一人の生徒の個性や個人的問題を深く理解するためには、実際に本人に面接するのが最も効果的であるが、教師が親和的・許容的・受容的といった相手に共感的な態度で接することが必要である。

生徒理解に必要な情報

生徒理解に必要な情報はきわめて広範囲にわたるが、主に身体的側面・心理的側面・社会的側面の3つに分類することができる。

身体的側面

まず、身体的側面だが、特徴として日常における観察のほか、健康診断やスポーツテストの記録などから容易に理解することができる。この身体的側面の理解が重要な意味を持つのは、これらの身体的特徴が生徒の自己概念に結びついている場合である。

生徒の不安や劣等感に関係した事例としては、青年期における性の受容(時代による差異があるデータに基づき、生物学的なものではなく、社会的に規定される心理的事象)・身体的早熟者と晩熟者の心理的差異(男女によって身体的成熟の意味が異なる点も含め)等がある。

心理的側面

次に心理的側面であるが、「性格・行動」「能力・適正」「興味・関心」の3つに分けて考えることができる。

性格・行動

「性格・行動」を理解(熟知以上の意味)するためには、単に現象面に現れた様相だけではなく、その由来ないしはからくりまで解明されていなければならないこと、その解明が客観的・実証的な概拠に基づくという二つの要件を満たさねばならない。心理学的理解についてはいくつかの重要な概念があるが、大きく分けると類型的把握(複数の事物を自然に観察し、似たもの同士を集めて類別していく)特性論的分析(心理テストによる人格理解とほぼ同義で人格理解の視点は類型論的把握とほぼ逆となる)・構造論的理解(人格を一つの統体として全体的にとらえ、各部分を理解した上で、それらをより高次の大きな機能にまとめていくという考え方)・価値的理解(より深い人間理解には客観性だけでなく、主観的理解も必要であるという考え方)となる。

能力・適正

次に「能力・適正」であるが、生徒が学校生活にうまく適応し、将来の自己実現において成長するように指導するためにその生徒の能力や適正を性格に、新しい学力観(知・徳・体)含め正確に理解することが重要な意味を持つ。

興味・関心

最後に「興味・関心」であるが、特に学力指導や進路指導において必要不可欠である。生徒がどのようなことにどの程度興味を持っているかを明らかにするには様々な興味検査がある。様々な事物や活動を示して、それらに対する好き嫌いを求める興味目録法、日ごろの疑問としていることを尋ねて興味の方向を明らかにする疑問調査法、読書傾向やテレビ・ラジオの視聴傾向を尋ねて興味を捉える方法、組織的に質問項目を作成し標準化を行っている標準検査法などがある。

また、職業としての活動や分野に対する興味(職業興味)は進路指導において重要な事柄なので本人の適正にあった指導が重要となる。

社会的側面

社会的側面に関しては生徒は社会的環境から多大な影響を受けて成長してきているため、生徒を取り巻く社会的条件の実態や特徴について把握しておくことが必要になる。

まず、対人関係であるが、生徒が所属する集団の特徴や、その集団の中で生徒がどのような役割や地位にあるのかについて理解することが大切であり、広範囲にわたる資料の収集が望ましい。学校関係においては、生徒の学校への適応状態や健康状態、学校生活の様子は生徒理解においての重要な客観的資料である。家庭の人間関係や親の態度・教育的関心など、生徒指導において慎重且つ細心にその生徒の置かれている状況を理解し進めていくことが寛容となる。

生徒理解の方法

最後に生徒理解の方法であるが、面接によるもの・観察によるもの・調査によるもの・標準化された心理テストによるもの等が挙げられる。

面接によるもの

面接とはあらかじめ定められた場所で、教師が児童・生徒と会い、質問したり、何かの作業をさせたりして、それに対していかに応えるか、またどのように取り組むかを観察しながら情報収集や相談を行うことである。

面接では面接者と被面接者との間に相互的な自然で抵抗のない、共感的なコミュニケーションを可能にする(ラポール)必要があり、そのためには、生徒に対して思いやりのある、暖かい態度で臨む・生徒に対して純粋な関心を持ち、話すことを喜んで聞く・少なくても最初段階では生徒のありのままを受容する・和やかな雰囲気を作り、生徒をいらだたせないよう配慮する・可能な限り共感的に理解するよう努める・ゆっくり構えて急がない・質問や応答の内容についての判断を迅速、的確に行う・わかりやすい、日常使っているような言葉で話す・説教じみた話し方や、教えようとする話はしない、といったことが必要になってくる。

生徒指導を行う場合、教育上(学習・心理・進路)の問題を持つと思われる生徒やその保護者に直接会って話し、情報を得ることが必要になるが、大切なのは何が問題なのか、なぜその問題が今出てきたのか、問題の解決のためにどのような対策がなされてきたのか、生徒や保護者の本質を捉えるよう努めることである。また、問題点だけでなく、生徒の得意なことや好きなこと、学校・家庭・地域で生徒の援助に役立つ資源を把握することも大切である。

観察法

次に観察法であるが、人間の行動を第三者の立場で観察・記録・分析して客観的な資料を得る方法で、自然的観察法と実験的観察法に大別される。自然的観察法は、観察する生徒に対して、観察する側から特別の働きかけをすることなく、その行動を自然に観察することを言う。実験的観察は、あらかじめ条件を設定して、そのもとでの行動・活動の様子を観察することを言う。

調査

調査による生徒理解とは、生徒の状況を把握するために、生徒や家族・友人・教師関係などにあらかじめ用意した質問項目などを印刷した用紙に記入してもらうものである。調査法は、これのみによるというのではなく、様々な方法と共に用い、その資料を補足するようにすればいっそう効果を上げることができる。

心理テスト

最後に心理テストを用いた生徒理解であるが、科学的客観性のある標準化された心理テストは、教師一人の考えで経験的に行う生徒理解の際に起こりやすい偏りや独断を避けることができる。標準化された心理テストは対象となる個人の心理的な特性や機能についての客観的且つ臨床的に有効となる情報源となる側面、生徒やその家庭が抱えている問題についての適切な評価(アセスメント)や解決法(治療法)を提供するために必要とされる治療の一環としての心理テストの側面がある。

生徒との信頼関係を得て、上述のような様々な生徒理解の方法をとり、教師による生徒理解と児童による自己理解を深め、より一層信頼関係を深めることにより、各自の個性的な発達を援助していくことが真の生徒理解であると思う。