性感染症と学校における性教育




性感染症とは

性感染症(STD)とは、定義には性器に関する感染症と言う意味で性行為またはその類似行為により感染する疾患をもさす。

近年では、HIV感染症をはじめ、性感染症が世界的に増加しており大きな社会問題となっている。この背景には性の自由化、性風俗の変化、性行為の多様化といった風潮が根底にある。

性感染症は10種類以上あるが、すべの医師が診断した場合に保健所に届ける必要があるのは梅毒とHIV感染症のみである。その他の一部の感染症については全国約920の届出指定医療機関のみが届出を行っている。疾患の動向を個別に見ると梅毒は以前に比べると激減しているが、女性の性器クラミジア、男性の淋菌感染症は増加している。クラミジアあるいは淋菌は性器以外にも口腔内への感染も広がっており、オーラルセックスなど性行為の多様化が関連しきている。

女性あるいは男性においてもクラミジアは症状がないことも多く、このために性感染症が広がる温床になっている。

なお、性感染症は一般的にセックスパートナーが多いほど、また女性では人口妊娠中絶の既往を有するほど、性交時にコンドームを使用しないほど、初回性交年齢が若いほど感染頻度が高くなっている。

性行為の低年齢化が顕著になったのは1999年頃で、現在においては高校生の性交経験率は男子で27%、女子で30%程度と言われている。なお、高校生の8割は高校時代に性交経験を持つことを肯定的にとらえている。

最近になり性感染症患者に対する偏見も少なくなり、また、社会的関心も高まりつつある為性感染症に対する取り組み方は徐々に変化している。HIVのように治療方法が確立されていない性感染症の拡大と、また世界的に広がる傾向にあることがその背景にあると考えられる。しかし、戦後生活環境、文化の変化に伴い性風俗の多様化により性行為の若年化は顕著でまた、知らないうちに感染している場合もあり、二次感染、三次感染により目に見えない水面下での性感染症は、極めて深刻な問題となっている。

医学の進歩により、ペニシリンを始めとする強力な抗生物質が創り出され、治療が比較的容易になってきたため、症状が出やすかった古い型の性病群は次第に影をひそめるようになり、それらに代わって、症状のあまり出ないウイルスによる新しい性感染症群が台頭してきた。




性感染症の予防と課題

性感染症は、正しい知識とそれに基づく個人の注意深い行動により予防することが可能であり、早期発見及び早期治療により治癒又は重症化の防止が可能な疾患である。そのため、性感染症に対する予防対策としては、感染の可能性がある者への普及啓発が最も重要であると思われる。特に、近年増加が報告されている若年層を対象とした普及啓発を予防対策の中心とする必要があるため、学校等におけるいわゆる性教育と積極的に連携していく必要がある。

性感染症の発生動向における課題は、病原体に感染していても無症状であることが多く、また、自覚症状があっても医療機関に受診しないこと等があるため、その感染の実態を本人を含め正確に把握することが困難なことである。

そのため、保健所における検査の受診を推奨するとともに、受診しやすい体制を整えることが重要であると思う。また、様々な検査の機会の活用を推奨していくことも重要である。そのため、性感染症は、一人一人が注意深く行動することにより、その予防が可能な疾患であり、正しい知識の普及啓発を中心とした予防対策を行っていくことが最も重要であると思う。そこで重要な正しい知識の普及啓発のために学校教育が必要不可欠である。

学校における性教育

学校における性教育は、児童生徒等の「人格の完成」と、「豊かな人間形成」を究極の目的とし、人間の性を人格の基本的な部分として、生理的側面、心理的側面、社会的側面などから総合的にとらえ、科学的知識を与えるとともに、児童生徒等が生命尊重、人間尊重、男女平等の精神に基づく正しい異性観を持ち、自ら考え、判断する意志決定能力を身に付け、望ましい行動が取れるようにすることを目的としている。

そのため、性に関する指導は、学校教育活動全体を通じて行うことが理想であり、各教科・道徳・特別活動及び総合的な学習の時間において集団を基本として行う指導と、その基盤づくりや補完として、個別やグループで行う指導により、児童生徒の実態を踏まえて両面からの指導を行っていくべきであると思う。

また、学校教育だけでなく感染の広まっている若年層に対しては、性感染症から自分の身体を守るための情報について、対象者の発育や発達の段階に応じて、同年代の者等の適切な人材の協力を得、又は分かりやすい図表等を用いる等の創意工夫の上で伝達するとともに、インターネット等の媒体を適切に利用することにより、効果的な情報提供を行い、広く理解を得ることが重要であり有効にしなければならないと思われる。学校等における教育においては、児童生徒等の性別構成等の実態、地域における保護者の理解や保健所の取組状況等に応じた普及啓発が重要であると思う。

教育機関だけでなく専門知識・医療施設などへの相談など関係諸機関との連携も重要であると思える。教育者の知識だけでなく、専門家による知識の拡張を積極的に導入し、有効な専門的視点から見た予防策を、教育機関によって広く普及させることが、最大の予防であるといえる。