体育科指導の留意点




男女の運動経験の差

子ども達は、幼少期より女子または男子として扱われ、育てられることが少なくない。そして、早い時期から同性の友達を選んでグループを作る傾向にあり、自転車やアスレチックなどの大型固定遊具での遊び方にも男女で違いがみられる。このような遊びの違いは、男女の遊びへの欲求の相違によるものではなく、遊びの選定の現状が必ずしも男女の興味によるものだけではない。

こうした幼少期の運動経験の差は、そのまま学童期に持ち込まれ、より大きな身体能力の男女差を生むことにつながる可能性があり、例えば、体力を測定するテスト項目の中で、「ボール投げ」は小学校1年生からすでに最も男女差が大きい。しかし、男女の利き手と非利き手によるソフトボール投げの得点を比較すると、利き手では明らかに男子のほうが高得点を示すが、非利き手では男女差がみられないという。つまり、この時期の子どものボール投げの例に見られる男女差は、環境の影響を大きく受けていることを示唆している。




体育科で重要なこと

体育の授業ではこうした固定観念としての性差を一旦取り払い、男女平等に、遊びの機会が提供されているかどうかに改めて注意し授業展開が行われるべきである。また、個人差の観点からは、心身の発達は、暦年齢だけでは決められず、様々な特性をもった子どもが存在する。暦年齢や教育年齢に加えて、子どもの発達速度の個人差、身体特性の個人差等を考慮することが重要であると思う。

近年、子ども達の体格が大きくなっているのに反して、体力・運動能力は低下している。それは、体力・運動能力の個人差が広がって、より低いレベルにある子どもが増加したことによる。また、運動の基本となる動作パターンの発達が未熟な子どもが増えていることも指摘されている。しかし、運動やスポーツを実施する頻度の高い子ども達の体力・運動能力は低下せず、顕著な低下を示しているのは実施頻度の少ない子ども達においてである。したがって、運動・スポーツを実施することが、子どもの体力・運動能力の発達や維持に重要であることは明らかである。

体育科での留意点

これらを踏まえた上で、小学校における体育の授業の留意点を示す。

まず授業内容を項目別に分類すると、模倣・物語り遊び、リズム遊び・リズム運動、ボール遊び・ボール運動、鬼遊び、リレー・陸上運動、器械遊び・器械運動、徒手体操、水遊び・水泳、と分類できる。

模倣・物語り遊び

まず模倣・物語り遊びであるが、児童にふさわしい活発な動作を選び、筋力を発達させ、リズム感覚を練り、観察を正確にし、表現能力を高めていきたい。自由で活発な動作を(走・跳・投・ねじる・まげる)反覆されるよう計画することにより筋力の発達を促すべきである。

リズム遊び・リズム運動

次にリズム遊び・リズム運動であるが、音楽や手拍子などのリズムによって筋力を発達させるとともに、リズム感覚を育て、団体活動に参加する機会を与えて社会性の発達をはかるものであるのを目的としている。動作は大きくかつ自由であることが大切で、リズミカルな動きの楽しさを味わわせるよう留意すべきであると思う。

新しい動作は教師の示範によることもあり、児童の演技を発展させることもある。そのため模範となる演技は楽しく、わかり易く、リズミカルに行うことが望ましい。

ボール遊び・ボール運動

ボール遊び・ボール運動では種々なボールによる活動で、大筋を発達させ、調整力、正確度、判断力を練り、内臓の機能を高めるとともに社会的性格の育成を図りたい。

低学年では、筋肉の発達が未熟で目と手の協応も不十分であるから、簡易な運動を選び、秩序ある活動・学習を指導し、とくに社会性の発達に留意する。高学年になると、相当複雑なものが可能となり、協力の態度や責任ある行動の能力が発達することから、それを助長して秩序ある行動を学習させいろいろな型のボール運動を経験させるべきである。

鬼遊び

鬼遊びとはいわゆる鬼ごっこやじゃんけん遊びなどの簡易で愉快な活動で、体育の時間としては、なるべく運動量の大きいものを選び、短い時間で適宜活動させ、指導者のない時の遊びに関しても指導する。それにより休み時間等の活動も活発になり、運動能力の発達がさらに促されるはずである。

リレー・陸上運動

リレー・陸上運動はかけっこ・リレーなどで、走・跳その他の基礎的身体能力を高めることが主目的となる。留意点としては、かけっこのように個人的競走として行わせる時は、あらかじめ走力をはかって、同程度の能力の児童間で競走させ、リレーとして行わせる時は、組の力が平均するよう班別する。

器械遊び・器械運動

器械遊び・器械運動ではマット・鉄棒・すべり台・ブランコなどの運動で身体の発達を助長し、器用さ・力・身体の安全に対する能力を高めることである。傷害防止のため、器具・器械の故障や置場に注意する。

徒手体操

徒手体操では正しい姿勢を発達させ、身体の均整な発達を促し、筋の柔軟性と関節の可動性を高めるとともに矯正運動にも役だつようにする。

水遊び・水泳

最後に水遊び・水泳は、全身を調和的に発達させ、内臓の機能を高め、皮膚を鍛錬し、自己ならびに他人の安全に対する心得と技能を習得するとともに、水に対する興味を発達させることである。危険防止にとくに注意を払わなければならなく、準備運動を確実に実施することや、水にはいる前後に人員を点検すること、水中ではとくに指導者の命にしたがうことなどは忘れてならないことである。

教室の机上で学んでいるのではなく、体育は特別体を動かす授業である。そのことから、どの項目においても児童の安全面では注意が必要で、仮に怪我をしても、冷静に対処するために、事前にどう対処するかをまとめておくことである。